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2016年07月08日

不動産市場は成熟期にあるのか? 不動産市場の全体動向と注目のトピック

不動産金融塾第57回

著名な講師を招いて不動産金融に関する講演を開催する「不動産金融塾」。第57回目の講演では株式会社ニッセイ基礎研究所の金融研究部不動産市場調査室長である竹内一雅氏から、不動産市場の全体動向、そして民泊や不動産利回り、人口といった注目トピックについてお話を頂きました。

まず不動産市場の全体動向について竹内氏は以下のように説明し、当面は好調が維持されるものの、その足元は盤石ではない点に注意という見方を示しました。

・依然として弱いままの消費、円高や海外経済の減速による企業収益環境の悪化傾向、イギリスのEU離脱騒動といった突発的なネガティブ・イベントが、企業の節部投資意欲を減退させ、投資家の株式に対する見方を弱気に傾かせている。
・こうした逆風にさらされている景気を守り支えるためにも、日銀は量的緩和とマイナス金利の実施を長期化せざるを得ない。これは資金の借り手には支払利息の軽減をもたらす一方、利回りという点で債券投資の魅力を色あせたものにしている。
・現在は企業の設備投資が盛り上がらず、投資家は株式や債券への投資に積極的になれない。一方で日銀の量的緩和やマイナス金利の実施は当面続くという状況。
・そうなると、設備投資にも株式投資にも債券投資にも投じられない資金は、利回りでうま味のあるJ-REITや実物不動産に向かわざるを得ないのではないか。

また、竹内氏は各用途別の市場動向も取り上げ、オフィスは2018年~2020年に予想される大量供給を需要が消化できるか、住宅市場は円安と相続税対策に支えられた国内外富裕層の億ション購入の持続性、ホテルは今まで外国人と並んで需要を支えてきた団塊世代が後期高齢者となることで日本人旅行需要が大きく落ち込む可能性がある、といった今後の注目点、注意点を指摘しました。

続いて講演は注目トピックに移ります。

最初のテーマとなったのは民泊です。外国人観光客の急増等を背景に、現状や制度改正の動きがたびたびマスコミに取り上げられている他、新たなビジネスチャンスとして注目する企業や投資家も多く、関連セミナーも活発に行われているといいます。
そんな民泊ですが、インターネットでマッチングを利用した民泊、所謂「ネット民泊」や農漁村での農業・漁業体験を目的とした「農家民泊」、イベント開催で一時的に宿泊施設が不足した地方での「イベント民泊」が「民泊」の一言にまとめられて取り上げられることで議論が錯綜し、問題点が見えにくくなっているという声もあります。
そこで竹内氏が今回焦点を合わせたのが「ネット民泊」です。「訪日外国人4千万人」目標達成の切り札として政府が規制緩和議論を進めており、ビルオーナーや様々の投資家はもちろん、さらには関連する行政手続き等の市場を狙って司法書士業界、行政書士業界も熱い視線を注いでいるということでした。
一方で「ネット民泊」については騒音や犯罪、テロに悪用されないのかといった点も気になります。そうした懸念点の克服について、竹内氏は仲介や管理、清掃や改修といった分野に社会的信用のある企業が進出し、安定的継続的にサービスを提供していくことが必要という見方を示しました。

続いての注目トピックは、不動産利回りです。不動産利回りは「不動産収益(NOI等)/不動産価格(鑑定評価額等)」で算出されるため、不動産価格の上昇局面では低下する性質を持っています。今年5月には、一般財団法人日本不動産研究所が発表したデータでオフィスの期待利回りがファンドバブル期(2007年)を割り込んで業界の話題となりました。 この不動産利回りについて、竹内氏は複数の鑑定評価機関がそれぞれ出している利回り推移を取り上げ、その利回りの数字に0.3%~0.6%のばらつきが見られると指摘しました。
つまり、投資の目安として利回りを利用する場合、投資家は複数の鑑定評価機関の利回り推移を見比べて妥当な水準を判断する必要があるということになります。

さらに注目するトピックとしては人口になります。日本の人口の話となると全体的な減少傾向と高齢者層の増大に視点が集まりがちですが、竹内氏が取り上げたのは、人口の流出入、つまりどこから出て行ってどこに集まっているのかという点です。 ここでは「住民基本台帳人口移動報告」等のデータに基づきながら、東京への人口集中と言われて久しいが東京圏への転入者数も長期的には右肩下がりとなっていること、都心部への人口集中は東京よりも地方の主要政令指定都市で顕著といった事例が説明されました。
最近のJ-REITでは地方主要都市への投資が活発化しつつあると言われますが、それはこうした人口動態を反映したものなのかもしれません。

講演後は懇親会が開かれ、講師を務められた竹内氏を中心に業界や市場の今後についてざっくばらんな雰囲気で盛り上がり、他の参加者も積極的に他社や異業種の方と交流される等、活況のうちに終了となりました。

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