三菱UFJトラスト投資工学研究所(編)
AIやビッグデータ、機械学習、人工知能という言葉を目にしない日はない今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
かつては将棋や囲碁で世間の関心を集めていたデータサイエンスの成果は、急速にビジネスや社会の様々な分野へ活躍の舞台を広げ、今やマーケティングや広告、そして治安対策といった個人にぐっと身近な分野でも重要な働きをするようになっています。
その発展著しいデータサイエンスを玉石混交、ノイズともクリティカルともつかない大量の情報が飛び交う金融市場に適用するとどうなるのでしょうか?
「はたして常勝の投資法を編み出すことはできるのか?」等々夢は広がりますが、まずはデータサイエンスで金融市場に相対した時に現状出来ることを冷静に押さえたいところ。
それにうってつけなのが、三菱UFJトラスト投資工学研究所が編者となって世に送り出した「実践 金融データサイエンス 隠れた構造をあぶり出す6つのアプローチ」です。
本書の構成をざっとまとめると、以下のようになります。
・イントロダクションとしての第1、2章
・株式市場の動きについて基本的な項目をおさらいする第3章
・有価証券報告書やCSRレポート、決算短信といった開示資料にネットワーク分析やテキストマイニングを
適用することで企業の状態・姿勢を浮かび上がらせる第4~6章
・株式市場に大きな影響を与えるマクロ経済の分析手法を扱った第7章
・高頻度取引情報の分析から投資家行動を炙り出す第8章
・今後の見通しを示した第9章
上記各章の中で、決算短信に用いられているネガティブまたはポジティブな文言を定量的に把握することで企業業績の予測をより正確に行える可能性を示した第6章、そしてFOMC(連邦公開市場委員会)議事要旨の文言を分析することでFRB(連邦準備制度理事会)の景気認識を定量的に把握できることを示した第7章には強く興味をそそられました。
また本書に誠実さを感じたのが最終章たる第9章の記述です。
そこでは、徒に夢や期待を煽るのではなく、現状でデータサイエンスが金融市場に相対した場合に直面する限界にも言及しています。
この限界が科学技術の高度化のみで解決されていくのか、それとも人間とシステムが相互に補完し合う形で乗り越えられていくのか、今後データサイエンスが社会や経済に与える影響の方向性を考える上でも面白い材料を提供してくれる書籍だといえるでしょう。
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