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マーケットコラム

森ヒルズリート投資法人について/アイビー総研 関 大介

2013-09-05

関 大介

J-REITの価格は、株式市場の動向に左右される展開が続いています。東証REIT指数は8月27日に6月26日以来の1,300ポイントを割り込む水準まで下落しました。銀行を含む機関投資家の中間決算期となる9月に入ましたのでリスク要因に対し過敏な状況が続く可能性が高くなっています。従ってJ-REIT価格がさらに下落する局面もありそうです。

なお、9月4日にJ-REITの新規上場が公表されました。不動産私募ファンドの運営を中心に行う株式会社シンプレクス・インベトメント・アドバイザーズがスポンサーとなるSIA不動産投資法人が10月9日に上場する予定(証券コード3290)です。SIA不動産投資法人は、オフィスビルを主体に商業施設にも投資を行う複合型で上場時の資産規模は750億円弱となる予定です。旗艦物件となるJタワー(東京都府中市、取得予定価格243億円強)を含めオフィスビル系銘柄としては東京都心部の物件が少ないポートフォリオとなっています。この点を投資家が懸念材料として見た場合には、SAI不動産投資法人の上場後の株価は弱含みとなるものと考えられます。

さて今回は、8月19日に増資を公表した(以下、今回の増資)森ヒルズリート投資法人(証券コード3234、以下MHR)について記載して行きます。MHRは、港区(東京)を中心に大規模再開発を中心とした不動産事業を行う森ビル(株)(未上場)が100%スポンサーとなっている銘柄です。投資方針上は、投資地域として東京圏80%、オフィスビル比率を50%以上としていますので、首都圏中心型でオフィスビルを中心とした総合型銘柄です。ただし、今回の増資後のポートフォリオで見ると取得額の80%以上が港区内の物件でその他は渋谷区・文京区にそれぞれ1物件となっていますので都心特化型です。また取得価格の88%以上がオフィスビルとなっていますので、オフィスビル偏重の総合型銘柄となっています。
上記のポートフォリオ以上にMHRの特色となっている点は、スポンサーの森ビルとの協調関係です。MHRは2006年11月に上場しましたが、その後にサブプライムローン問題の顕在化(2007年6月)、リーマンショック(2008年9月)の影響を受けポートフォリオの収益力が大幅に低下しました。さらに2010年3月に行った上場後初となる公募増資は、J-REIT市況が低迷している中であったこともあり、1口当たり発行価額が202,427円となりました。増資前のMHRの1口あたり出資額は548,815円でしたので2010年3月の増資は大幅なディスカウント増資となりました。

このような状況が重なりMHRの1口当たり分配金は、2010年7月期に6,577円まで低下することとなりました。2010年9月になりMHRは分配金上昇を重視した立て直しに着手する方針を示しましたが、そのためにスポンサーである森ビルが大きな役割を果たすことになったのです。具体的には、収益力が低下した物件を鑑定価格以上でMHRから森ビルが取得する一方で既存ポートフォリオの利回り以上の物件を鑑定価格以下でMHRは森ビルから取得し1口当たり分配金の向上を図って来ました。森ビルとしては、長期的な収益力や再開発による資産価値上昇を見込んでMHRから鑑定価格以上で物件を取得したかたちになっています。スポンサーが上場企業である場合には、同様の取引を行うとスポンサーの株主からの訴訟提起のリスクが発生します。従ってMHRはスポンサーが長期の不動産開発を得意とする未上場会社である点が立て直しには大きな影響を及ぼしたことになるのです。

MHRは上記の立て直し策が奏功し、2013年に入ると株価は1口当たり出資額を上回る状況となったため、増資を行っても2010年3月の増資時のようなディスカウント増資を回避できる局面となりました。それに伴い、立て直し局面から物件を取得し資産規模を拡大する外部成長フェーズに移行しています。今回の増資は2013年3月に続く2期連続となりましたが、共に発行価額が増資前の1口あたり出資額を上回るプレミアム増資でした。2期連続の増資による物件取得でMHRの資産規模は2013年1月末の2,108億円から2,527億円まで増加します。また1口当たり分配金も順調な回復を示しています。
今後もMHRが1口当たり分配金を増加させるには、増資による物件取得が必要な状況が続くものと考えられます。MHRは、前述の通りオフィス主体の総合型銘柄ですがポートフォリオの月額賃料のうち85.5%(※1)が長期固定賃料の契約となっています。このため、MHRはオフィス市況の回復による収益増加が期待しにくい銘柄となっているのです。

増資以外の1口当たり分配金の増加要因としては、借入金の借換えによる支払利息の削減効果が挙げられます。MHRの平均調達金利は、第15期(2014年1月期)で1.6%(※2)となる予想を公表しています。この平均調達金利は、他のオフィス系銘柄と比較すると比較的高いものとなっています。例えばMHRと同様にオフィス系銘柄で資産規模が2,500億円程度となっているジャパンエクセレント投資法人(証券コード8987)の平均調達金利は2013年6月期末で1.28%です。つまりMHRは、今後の借入金の借換えが進むことで平均調達金利の低下余地がある銘柄と考えられるのです。

※1:森ヒルズリート投資法人が公表した2013年3月18日付け「第13期(2013年1月期)決算説明会資料」P8による。なお比率は2013年4月1日時点の見込み値となっている。

※2:上記※1の資料P9による。

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