REIT注目記事
2019年J-REIT市場見通し
マーケット予測
(写真/iStock)
2018年のJ-REIT市場は、1月4日の終値1,665.15ポイントだった東証J-REIT指数が12月28日に1,774.06ポイントで取引を終えたように概ね上昇基調で推移した。
その追い風要因として以下の2つの要素が考えられる。
まず1つ目は堅調な景気と企業業績、Eコマース市場の拡大、インバウンド需要の急速な増加によってオフィスや物流施設、ホテルといった不動産の収益性が押し上げられたというファンダメンタル要素である。
続く2つ目は、世界的な低金利環境を背景により高い利回りを求める内外投資資金のJ-REITへの流入、米中貿易戦争の影響を嫌った投資資金の内需部門へのシフトといった投資家の動向によるものである。
では、今年2019年のJ-REIT市場はどのように推移すると考えられるだろうか。
2018年のJ-REIT市場を支えたファンダメンタルと証券市場の動きは、概ね2019年においても機能し、J-REIT市場を底支えしてくれると著者は見ている。
一方でより細かくJ-REIT市場を支えた要素を見ていくと、2019年は前年に比べて勢いが弱まると推測される要素もあり、J-REIT市場もイケイケで高値を更新していく展開になるとは考えにくい。
総じて2019年のJ-REIT市場は一定のレンジ、東証J-REIT指数で言うと1790±20ポイントのレンジで推移するというのが著者の見立てである。
では、どの要素が2019年J-REIT市場の支え役として機能し、どの要素が逆風となってくるのだろうか。
まず最初に支え役として考え付くのは、日銀金融緩和による低金利環境である。
J-REITは出資・増資によって調達した資金に、銀行等からの借入れで調達した資金を合わせて物件取得を行い、収益力を高めていく構造となっている。
当然、借入れで調達した資金(負債)からは支払利息というコストが発生するのだが、日銀が金融緩和で長期金利をほぼゼロに貼り付けている現状では、J-REITが背負う金利負担も相応に低くなり、その浮いた分が分配金に回ることで利回りを求める投資家を惹きつける魅力となる。
日銀は脱デフレを念頭に「物価年率2%上昇」という目標を掲げており、これが達成するまでは大規模金融緩和を続けるという姿勢を取っている。
ここで目を原油市場に転じると、昨年10月には80ドルを窺う勢いだった原油価格(WTI)はその後大きく崩れ、現時点では50~52ドルで推移している。
エネルギーや諸製品の原材料として物価への影響力も大きい原油の価格が現在の水準のままであれば、「物価年率2%上昇」という日銀の目標達成はいよいよ遠ざかることとなり、それだけ金融緩和とそれによる低金利状態が長続きすることになる。
後ほども触れるが、原油の一大需要国である中国で景気の減速感が強まっていることを考えると、原油価格も上昇基調入りするとは考えにくく、それは巡り巡って日本の低金利状態を長引かせ、J-REITの金利負担を低減させ続けるだろう。
次にJ-REIT市場に対して追い風かつ逆風という一見矛盾した影響を及ぼしそうなのが「米中貿易戦争」である。
既に企業にサプライチェーンや設備投資計画の再検討といった形で影響を及ぼしている米中貿易戦争だが、両国の落としどころは依然として見えず、事態の帰趨は不透明なままである。
これによって外需企業業績への不安が高まっていけば、投資家の視線は自ずと内需企業やJ-REITに移り、新たな投資資金流入に繋がると考えられる。
一方で米中貿易戦争の影響により、中国はもちろん、同国との通商が経済上大きな意味を持つ韓国や台湾で景気の減速感が強まっている。
これらの国は、日本で近年盛上っているインバウンドの中核を占める国でもある(観光庁発表のデータでは、2018年12月訪日外国人約263万人のうち、中韓台が61%程度を占めている)。
もし中韓台の景気の冷え込みが対日観光旅行へ波及すれば、「インバウンドの減速→ホテル需要の減速→投資法人の収益力低下」という連想ゲームが働き、ホテル投資型J-REITからの投資資金引き揚げが活発化することが予想される。
このように観光において外国人の存在が重要性を増した現在、ホテル投資型J-REITは他のJ-REITとは異なって外需銘柄の一角として考えるべき存在なのかもしれない。
最後にJ-REIT市場全体にとって逆風となる要素として、日本経済の減速を挙げたい。
内閣府が今年1月10日に発表した2018年11月景気動向指数(速報)において景気の基調判断を3カ月連続の「足踏み」としたように、昨年第4四半期を対象とした経済指標は景気の減速感や今後への警戒感の強まりを示す内容となっている。
日本経済の現状と今後について悲観的・懐疑的な見方が強い中でネガティブなニュースが投げ込まれれば、個別のJ-REIT銘柄や用途毎の好不調を無視した一方的な動きが市場に生じよう。
総じて2019年は、J-REIT市場にとって次のトレンドが生じる前の追い風要素と逆風要素のせめぎ合いの時期と言えそうだ。