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2016年06月09日

【後編】川口有一郎氏による「マイナス金利による不動産市場への影響とキャップレートの見方」

Japan REITセミナー

2.将来キャップレートの予測

不透明感の強まりを感じる不動産市場ですが、川口教授は「集団予測の能力を活用することで市場の転換点をより正確に把握することができるのではないか」と言います。
その具体例として取り上げたのが、川口教授が一般社団法人不動産証券化協会(以下、ARES)と実施している「不動産投資短観調査」の分析結果です。「不動産投資短観調査」はARES会員企業に対して各用途・立地の利回りやキャップレート等を回答してもらうアンケート形式の調査です。
分析では回答項目の中でも半年後予想キャップレートに焦点を当て、回答者を「超強気」「強気」「弱気」「超弱気」に分類し、各層の予想キャップレートの推移を整理しました。
その結果、大きな市場変動のあった2005年6月~2009年6月、2010年6月~2012年6月では「超強気」グループの半年後予想キャップレートが市場の変化を1年先取りする形で変化する傾向が見えてきました。
より広い範囲の投資家がこうしたアンケートに参加し、結果を共有し合うようになれば、現在が市場サイクルのどの地点にあるのかが鮮明になり、市場のオーバーシュートとその後の反動をよりマイルドにすることが可能になるのではないでしょうか。

3.不動産市場の予測学

「2.将来キャップレートの予測」でも触れましたが、より確度の高い将来予測が市場参加者間で広く共有されるようになれば、市場の行き過ぎを予防する上で大きな力になると考えられます。
そうした市場環境の実現に向け、川口教授に市場予測で使用している指標や見方について説明をして頂きました。まず川口教授は研究が蓄積されてきた株式を取り上げ、「今まではボラティリティの分析に軸足が置かれてきたが、今後はサイクル性に注目した分析モデルを構築する必要がある」という認識を示しました。
また具体的な市場予測では、不動産取引件数(Jリートの物件取得数)と株価(TOPIX)を組み合わせて見ると、不動産取引件数は株価に先んじてピークに達する傾向が見られるといった興味深い事例が紹介されました。
将来を予測するには、単一の指標を追いかける粘り強さだけでなく、他の指標との組み合わせを厭わない思考の柔軟さも必要のようです。

4.不動産ビジネスの見通し

日本の不動産ビジネスの今後ですが、川口教授はアジア富裕層を中心に「オリンピック開催が決定した国では、実際に開催されるまで不動産価格が上昇を続ける」という「オリンピック神話」、そして政策による各種下支え効果が続いているうちに次の成長材料に転嫁することが必要との認識を示しました。「次の成長材料」として挙げられたのは以下の2点です。

 1.公的不動産(PRE)、企業不動産(CRE)のフロー化。
 2.東京のグローバルシティへの脱皮。

既に政府は「2020年ごろまでにリート等の資産総額を30兆円に倍増」という野心的な目標を打ち出していますが、川口教授は官民双方でストックとして抱えている不動産を8兆円ずつ証券化、フロー化すれば十分に達成可能な目標という認識を示しました。もし実現すれば、国内は勿論、海外の投資家の注目も集まり、東京のグローバルシティへの脱皮にも一役買いそうです。 続いて東京のグローバルシティへの脱皮ですが、川口教授は外国からの投資や企業への呼び込みにとどまらず、英語だけでビジネスの全て、生活の全てをまかなえる街区の創設といった大胆な提案も飛び出しました。訪日外国人観光客の急速な増加に見られるように投資先やビジネス拠点に留まらない東京、そして日本の魅力に世界的な注目が集まっている今こそ、東京のグローバルシティへの脱皮に向けた最大のチャンスなのかもしれません。

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