Japan REITセミナー
では、金利とともに不動産価格に大きな影響を与える賃料の動向はどうなっているのでしょうか。様々な用途の不動産がある中で最もデータが充実しているオフィスを例として、川口教授にお話を頂きました。
まずオフィス市況ですが、2020年前後の大型オフィス大量供給が需給を緩め、ひいては空室率の上昇や賃料の下落をもたらすのではないか、という議論があります。これについて2007年のファンドバブル期以後のオフィス需給は需要を見て供給量が決定される状態が根付いており、大きな外生的ショックがない限り、2020年前後の大量供給も需要が吸収可能だろうという見通しを示しました。
また、GDP等を基に算出した理論上の賃料と実際の賃料との乖離から賃料推移の転換点を探るという方法も紹介し、そこから賃料のピークアウトは2018年以降ではないか、という見方も示しました。総じて目先の賃料動向については堅調、良好な状態が続きそうです。
一方、2013年後半から始まる平均賃料の上昇トレンドを前回の賃料上昇期(2005年~2007年)と比較し、今回の賃料上昇は前回に比べて非常に緩やかな伸びに留まること、そして通常の賃料上昇が空室率4%あたりから始まるのに対して今回の賃料上昇は空室率7%弱から始まっていることから、オフィス市場に何らかの構造変化が起きた可能性に触れていたのは気になるところです。
足元と近い将来の見通しは悪くないものの幾つかの不安要因もちらほら出てきた不動産市場において、投資家たち(主に機関投資家)はどのような行動や見通しを採っているのでしょうか。川口教授が一般社団法人不動産証券化協会と連携して実施している投資家アンケート調査「不動産投資短観調査」の結果からご説明頂きました。
そこから浮かび上がってきたのは、以下の市場風景です。
・不動産価格については売り手、買い手、双方でピークアウト派が多数派。
・ただし2016年の不動産価格はアンケートで示された投資家予想より上振れした。
・金融機関の貸出姿勢が引締め色を強めつつある。
先のトピックの内容と合わせてみると、不動産市場は高原状態にあってそれが当面続くと見られるものの投資家は先行きに慎重な姿勢を崩していない、そのように言えそうです。
また川口教授はアンケート調査の結果から、投資家の予測が適応的(※1)とみられること、にもかかわらず日本銀行が「投資家は合理的(※2)に意思決定する」という前提で諸々の政策を決定・実行していることが、日本銀行の政策目標が思うように達成されない一因としてあるのではないかという見方を示しました。
※1.過去の実例に基づき将来を予測することを指します。
※2.過去の実例にとらわれず将来を予測することを指します。
最近、不動産企業の海外物件投資を報じるニュースを目にする機会が増えていますが、その全体的な状況どうなっているのか、或いは同じく海外不動産投資が活発だったバブル期との違いはあるのかといった点を最後のトピックとして川口教授に取り上げて頂きました。
まず世界的な不動産投資の流れですが、アジア・太平洋、欧州・中東・アフリカ、北米の3地域間での投資の流れを見ると、アジア・太平洋と欧州・中東・アフリカの投資資金が北米に流入し、北米からの投資資金は主に欧州・中東・アフリカに流入しているというのが現時点での大まかな構図となります。
そこを踏まえた上で経済の好調さや地政学リスクを背景に日本からの北米不動産への投資は、2017年もさらに拡大するだろうという見通しを示しました。
一方で日本不動産については、足元の市況は好調なもののアジア諸国の富裕層を中心に「2020年の東京オリンピック以後は大丈夫なのか?」という疑問の声も増えつつあるようです。こうした海外の日本不動産に対する疑問や慎重姿勢を解きほぐすために必要なこととして川口教授が強調したのが、規制改革や特区制度の活用を通じた東京等の都市力向上、治安の良さや利便性、歴史文化の積み重ねといったオリンピックだけではない日本の強み、魅力の積極的な宣伝です。国内のみならず、海外資金の取込みによる日本不動産市場の活性化のため、官民一体となった取組の加速が期待されます。
続いてバブル期と現在の海外不動産投資の違いですが、米国長期金利が非常に低い状況で人口分布等に注意しながらダウンサイドへの耐性を重視して投資を進めているのが現在の海外不動産投資の特徴だと指摘します。「ピークに買ってボトムで売った」と言われるバブル期の海外不動産投資とその失敗ですが、その教訓が現在に生かされている点が印象的でした。
各トピックを終えた後は、質疑応答の時間です。不動産金融の第一人者ともいえる川口教授に直接質問ができる機会ということで、出席者からは質問が活発に飛び、熱気の途切れないまま定刻を迎えてセミナーは幕を下ろしました(主だった質問とそれに対する川口教授の回答を次頁に掲載いたします)。
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1 | 新宿三井ビルディング | 1,700億円 |
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2 | 飯田橋グラン・ブルーム | 1,389億円 |
3 | 六本木ヒルズ森タワー | 1,154億円 |
4 | 汐留ビルディング | 1,069億円 |
5 | 東京汐留ビルディング | 825億円 |
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