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マーケットコラム

ニューシティ・レジデンス投資法人の再生計画の問題点とJ-REIT破綻後の処理について/関 大介

2009-06-05

関 大介


 昨年10月9日に民事再生を申請し、事実上破綻したニューシティ・レジデンス投資法人(NCR)は、5月13日に投資主総会を開催した。
提出された議案は4月7日にNCRが公表したローン・スター・グループを新スポンサーとする再生計画案に伴うものであり、具体的には、再生計画認可後に投資法人の執行役員、監督役員を交代するための補欠役員の選任(第1号、第2号議案)、現資産運用会社の解任と新資産運用会社の選任(第3号、第4号議案)の全てが承認された。
但し、投資主総会開催までの過程においてJ-REIT破綻処理の問題点が露呈した形となった。
特に大きな問題として以下の二点が挙げられる。

①民事再生法による破綻処理
一般事業会社が破綻し民事再生処理に移行した場合、破綻までの過程で経営陣の退職、給与カットや従業員などのリストラを行い一定の経営責任を株主や債権者に示すことになる。しかし外部運営型のJ-REITの場合、スポンサー企業は直接的な悪影響を全く(※1)受けず投資主と債権者だけが破綻により「痛み」を強いられることになる。
そのようなJ-REITの破綻処理にもかかわらず経営責任を果たしていない資産運用会社及び旧スポンサー出身者の執行役員が新スポンサーの選定を行うことでは、どのような再建計画であっても投資家の同意を得ることは困難であろう。
今後の破綻処理に関しては、J-REIT破綻時には第三者委員会などの設置を義務付け、資産運用会社は既存物件のオペレーション継続に専念し、新スポンサーの選定過程からは除外する必要性があろう。

②破綻移行時の資産評価
NCRの再生計画案で示された破産時の財産評価額は、905億円程度とされ、物件取得額1,840億円に対して50%を切る水準になっている。
しかしどのような手法で誰が評価したという点は全く開示されていない。穿った見方にはなるが、再生計画に賛成を強いるために作られた数字と解釈される可能性もあるのだ。
このような懸念を避けるためにも、J-REITの物件取得と同様に破綻時にも個別物件ベースの評価額及び評価者を開示するように義務付けることが重要であろう。
またこの評価額は他REITに対する影響を及ぼす可能性もある。
NCRは比較的築年数の浅い物件で構成されたポートフォリオであるにも関わらず、破綻時には取得額の半額程度にしかならないことが示されたためだ。NCRと比較して立地や収益性に劣るポートフィリオ構成である銘柄は少なくない。
つまりJ-REITが破綻した場合は、多くの銘柄で投資口が紙切れになるという数値を示しているのだ。
それだけでなくJ-REITに対する金融機関の融資姿勢も改めて厳しくなる数値を示したものだ。
NCRのポートフォリオでも破綻処理に移行した場合は金融機関の融資分も毀損することになる。
この点からもどのような評価方法によって905億円という数値が導きだされたのかを開示する義務を現資産運用会社は負っているのではないだろうか。

一方で再生計画の中で評価すべき点も指摘しておきたい。
一点目は、破綻にも拘わらず新スポンサーが35,000円で投資口を買い取る予定としている点だ。
新スポンサーに名乗りを上げた他社の計画が開示されていないため、想像の域をでないがローン・スターの提示が最も高い価格であった可能性が高い。
債権弁済計画が金融機関にとって極めて厳しい内容(※2)であることと併せるとNCRが破綻状態に陥った状況下ではこの提示額以上は難しいだろう。
二点目として、現資産運用会社の従業員が新資産運用会社に移転する予定であることは、分配金の創出源である賃借人の利便性を重視する上で評価したい。
NCRの破綻は資産運用会社経営陣の市況判断ミスが原因であり、従業員まで破綻の責任を負わせる必要性はないと考えられる。
さらに従業員が引き継がれることは、J-REITにとって重要な利害関係人である賃借人にとってもプラスとなろう。賃借人は従来と同水準のサービス提供を受けられる可能性が高まり、NCR破綻の影響が軽微なものになるためだ。

※1:スポンサーが傘下のREITに投資している場合には、破綻の影響を受ける場合もある。
※2:債権弁済計画の評価については次のコラムで取り扱う予定。


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