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マーケットコラム

不動産投資とREIT/REITアナリスト 山崎成人

2010-05-28

REITアナリスト 山崎成人


 首都圏の分譲マンション市場が底を脱したようで、徐々に顧客が戻りつつあるようです。
マンション販売の現場では、顧客から想定家賃や利回りを尋ねられることも多く、購入に際しても不動産利回りが意識されているようです。
この現象は5年前頃から始まっていて、以前某大手デベロッパーから不動産投資含みの顧客に対してどういう説明をすれば良いかを教えて欲しいと頼まれた事もあります。
分譲マンションの購入を検討する人も、購入したマンションを賃貸に出すとどの程度の利回りが得られるのかは知りたいようですが、その情報の活用は人によって異なるようです。
純粋に不動産投資として考える人、不動産を利回りで見たい人、価値の下支えとして知っておきたい人等に分かれますが、前2者に対しては、十分な説明が出来ないのが実状です。
その原因の一つとして、現在の不動産投資利回りの標準値が分からないこと、そして、賃料・稼働率の変動率のデータがない事が挙げられます。
仮にネットで4%/年の利回りがあっても、それがどの水準に該当するのかが分からなくては、判断が出来ません。
また直近の周辺賃料だけで不動産投資利回りを算定するのも合理的ではありませんから、もう少し詳しい情報が求められます。

さらに本質的に個人の不動産投資自体が成り立つのかという疑問もあります。
一部のマスコミでは、個人の資産形成に不動産投資を勧める姿勢がありますが、これには必ず不動産価格が上昇するという前提が必要になります。
もし不動産価格が横ばいないしは一定の幅での循環変動しか起こさないとなれば、建物の経年変化と伴に、不動産価値は劣化していきます。
劣化を遅らせ、且つ、賃貸市場での競争力を維持するには、運用と言う考え方が必要になりますから、これは個人レベルでは対応出来ません。
また不動産投資の基本は分散ですが、高額な不動産では分散は不可能です。
即ち、個人にとって不動産投資は不利な条件が多く、本来であれば勧められるものではありませんが、それでは不動産業界が困りますから、そういう話は中々表には出ません。

それでは、本当は個人がどう考えれば良いのでしょうか?
先ず言える事は、個人が購入する不動産は投資としての商品ではありませんから、投資の視点では劣後するという認識を持つ必要があります。
投資商品というのは、市場が要求する利回りに追従しなくてはなりませんが、不動産にはそういう器用さはありません。
買った価格によって、その後の利回りが決定されてしまいますから、市場利回りの変動に合わせるには、追加取得を行って平均コストをコントロールする必要があります。
また内部成長と言って、賃貸費用等の削減を行いネット利回りの向上も必要ですが、個人ではこのような余地がありません。
唯一のハンドリングは、賃料の値上げですが、元々住宅賃料は大きく上下しないというのが特徴ですから、これも期待出来ません。

このように考えると、個人はマンションを購入するのではなく、賃貸に居住して、不動産投資商品として作られたREIT等に投資するのが賢明です。
現在のREITであれば、6%/年以上の配当利回りが確保される銘柄が多く、投資資金も1口50万円前後と、マンション購入に比べれば遥かに少額ですから、分散も追加購入も可能です。
価値の変動も、個人が購入した不動産よりは穏やかになるはずですから、相対的リスクが小さくなります。
尤も、REITの投資口価格は日々変動していますから、却って価値の変動が大きいように思えますが、これは有価証券の価値であって、不動産の価値を表している訳ではありません。
REITから不動産の価値だけを抽出するのであれば、個人の購入する不動産と同等かそれ以上の価値を具備していると考えるのが普通です。
このように考えると、個人の不動産投資は実物では行わないというのが結論になりますが、恐らくそれでもなおマンション投資等の不動産投資にこだわる人が多いと思います。
「自分は違う」「自分には見分ける能力がある」という過信のせいかも知れません。
確かに過去に不動産投資で成功した人も居ますが、その逆に失敗し損をした人は、成功した人の数とは比べ物にならないくらい多いのです。
投資とはリスクの認識とコントロールから始まりますから、どうしても論理的に考えなくてはならないのです。
従って、不動産投資は論理的に考え、理解出来る人だけのものですので、個人が実物不動産に手を染めるのは慎重になるべきだと言えます。

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