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川口有一郎氏 「不確実性高まるグローバル化の中で不動産投資はどう変わるのか」 1/3
Japan REITセミナー
安倍首相と黒田日銀総裁のコンビが実施してきた大規模金融緩和、そしてアベノミクスによる日本再成長期待を背景とした国内外の資金流入によってリーマンショック、東日本大震災の打撃から息を吹き返した日本経済ですが、最近はBrexitや米国トランプ政権の発足、北朝鮮ミサイル問題といった不安要素が顕在化し、市場や投資家の不安感を高めています。
この足元の好調さと将来への不安感が入り混じった見通しの利きにくい経済環境から不動産市場はどのような影響を受けるのでしょうか。
長く不動産と金融の双方に目を凝らし、両者の相互作用について研究を重ねてきた早稲田大学大学院経営管理研究科の川口有一郎教授の第3回目となるJAPAN-REIT.COMセミナーが2017年5月23日に開催されました。
まず川口教授は、リーマンショックに代表される一連の金融危機後の世界について新興国、先進国ともに経済成長の伸びが危機前に及ばない「長期停滞」に入ったと指摘します。そして、この「長期停滞」から脱するために米国トランプ政権は財政政策と輸出促進を図る「アメリカ・ファースト」政策を採り、中国は「一帯一路」というユーラシア規模でのインフラ整備計画で自国民間投資を活発化させて事態を乗り切ろうとしているという見方を示しました。
また米トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策と中国の「一帯一路」計画ともに排他的なブロック経済的一面があり、それが南シナ海問題や北朝鮮の核・ミサイル開発問題とも絡んで米中間の緊張を高めてしまう可能性にも触れました。つまり米中両大国の「長期停滞」対策と安全保障問題が絡み合い、それが日本やその他の国々を揺らしていくというのが現在、そして近い将来の経済情勢の大枠と言えそうです。
では「長期停滞」という時代背景から日本の不動産市場はどのような影響を受け、投資家はどのような点に注意していけばよいのでしょうか。以下の4つの観点からそこに迫っていきます。
1.長期金利の反転が不動産市場に与える影響
2.オフィス賃料のピークアウトはいつになるのか
3.投資家調査から見る不動産市場動向
4.国内か? 海外か? 不動産投資のスタンダードからの判断
1.長期金利の反転が不動産市場に与える影響
「長期停滞」の世界では景気に中立的な自然利子率が低水準でとどまり、それを反映して金融機関等の貸出金利も低くなります。
一方、「長期停滞」の世界では多くの事業で収益拡大が難しくなるため、安定的な賃料収入をもたらす不動産の魅力が相対的に高まります。
そのため、低利の借入れが容易になるとともに借り入れた資金が不動産に流入しやすくなります。
では逆に何かの拍子で貸出金利が上昇に転じるとどうなるでしょうか。単純に考えると低利での借入が難しくなる分、不動産への資金流入が細って不動産価格は下落に転じそうです。実際、不動産価格について述べた多くの書籍や記事で「金利上昇は不動産価格の悪材料」という旨の記述がみられます。
しかし、それはやや単純化した見方のようです。川口教授は2003年から2017年まで金利と不動産価格の相関関係をグラフで示し、金利と不動産価格の関係が以下のような変遷をたどっていることを指摘しました。
①2003年~2007年前半:金利と不動産価格に目立った相関がみられない時期
②2007年後半~2012年:金利と不動産価格に正の相関(※1)がみられる時期
③2012年~2016年:金利と不動産価格に負の相関(※2)がみられる時期
④2017年~ :金利と不動産価格に目立った相関がみられない時期
※1.両者が同じ方向に動くことを意味します。
(金利上昇なら不動産価格上昇、金利下落なら不動産価格下落)
※2.両者が逆方向に動くことを意味します。
(金利上昇なら不動産価格下落、金利下落なら不動産価格上昇)
では金利以外に不動産価格に影響を与える要素は何でしょうか。
川口教授は賃料を挙げます。そして日米両国債のイールドカーブの動きから両国とも金利変動幅は限定的だとし、今後の不動産価格が金利動向よりも賃料動向に大きく左右される可能性に注意を促しながら、金利と賃料双方に目を配ったバランスのとれた見方をすることの重要性を強調して最初のトピックを終えました。